拾われし者

「拾われし者」~人間・芦原英幸と直弟子達~著者:原田寛

18歳の時、捨て犬ジョンと共にケンカ十段・芦原英幸に拾われた著者。

その後、芦原英幸、最後の秘蔵弟子として、幾多もの試練を超えてきた壮絶な12年間に及ぶドキュメント。

側近中の側近であった著者だけにしか知り得ない、数々のエピソードやドラマ。

▷ 極真会館・大山倍達総裁との師弟秘話
▷ 円心会館館長・二宮城光との涙の別れ
▷ 最高の勲章を受け取った正道会館創設者・石井和義の素顔
▷ 芦原英幸の壮絶な闘病生活
▷ 亡くなる直前に語った遺言
▷ 葬儀の舞台裏
▷ 芦原会館・二代目継承に至るまでのドラマ
▷ 芦原英幸の直弟子達、歴史に残る伝説

人間・芦原英幸と直弟子達の実像に迫る。

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序章

もう、あの出会いの日から30年が経とうとしている。

今でも、出会いと別れのシーンが脳裏から離れない。

拾われし者でも、少しはお役になれたのかな?と、今になって振り返る。


まさか、拾われの身があんな体験に遭遇するとは、夢にも思わなかった。

運命と宿命の不思議さである。

今では、貴重な体験として、又、人生の糧として、有難かったという思いにもなりえた。


そして幾多の月日を積み重ね、師匠が病気を発病した同じ年齢にもなり、その間、自分自身も今までの人生の過程において、組織の長として、又、家族を養う一家の大黒柱として、様々な経験を通じ、日々の試練を乗り越えてきた つもりでもある。


その間の体験を通じ、師匠の当時の考え方や感じ方も出来る様になり、ようやく一つ、一つの当時の体験の思い出を噛みしめるように、振り返る事が出来る様にもなった。

そして、次代が育ってきている中、この話を遺しておこうとも思うに至った。

ケンカ十段 芦原英幸。


私の人生の履歴書において、歴史を塗り替える事の出来ない偉大な師匠である。


昔、少年マガジンに連載された、人気漫画「空手バカ一代」の準主役ヒーローとして一世を風靡し、 実際に実在した人物として、当時の青年達の憧れのスーパーヒーローでもあった。


当時、「空手バカ一代」を通じた芦原先生は、日本列島に空手ブームを巻き起こした中、その後、在籍した極真会館を永久除名処分になり、自身の団体「芦原会館」を設立し独立。


独立後も、「空手界の天才」と評され、持ち前の独自の発想と行動力を用いて、様々な試練を乗り越え、元在籍した極真会館に、常にアンチテーゼを投げかけた。


そして、独自の技術論「サバキ」を体系化。

常に、空手界の一歩前を進み、技術書や教習用のビデオソフト等を世に残し、組織を国際的なものへと発展させていった。

又、その後の空手界・格闘技界において、世界的に活躍をする弟子を育てた事も特筆される事実でもある。

「人生50年、下天の内をくらむれば、夢幻のごとくなり。」


芦原先生は、自分自身を歴史上の人物に例える質問を、良く私達にした。
歴史上の人物像で例えるのなら、間違いなく、織田信長像が一番近いと思う。
本人も、そう認めていた部分でもあったが、織田信長が50歳で亡くなる事が 只一つ、気に入らない点であると、生前、強く語っていた。

常に、強烈なオーラにまとわれ、周囲の空気のピリ付き感。
早口で頭の回転が速く、圧倒的な存在感。
天才的な発想力と行動力の中、常に空手界の革命児でもあった。

対人関係においては、白か黒かしかなく、グレーが存在しない。
この性格ゆえ、組織の発展と自信のイメージとは裏腹に、 芦原先生の元を去って行った弟子が沢山いるのも事実であった。

人間には、各々の性格があり、良き所があれば、そうでない所もしかり。
長所と短所の、2面性の中の判断で物事が進んでいく。

そのトップの器以上には、組織の成長発展も成し得ることはない。
正に、トップの持つ、性格・器が描写された筋書きの無いドラマと言っても過言ではない。

芦原先生もしかり、本人の持つ、その性格のままに組織は動いていった。
そして本人が気に入らないと言っていた、織田信長同様、50年の生涯で幕を閉じ 時を一気に駆け抜けていった。

空手界に、常に革命を起こし、あと一歩の所で大革命を実現出来た所での挫折。
大きな試練に跳ね返され、どん底に叩き落とされた。
そして、同時に治療法のない難病を発病。

次代に跡を託し、あの世に行った。

目の前に起こったドラマの様な世界を、当時、誰が予想しえただろうか?

人生は、一度切りであるし、リセットもきかない。

人間の死は、普遍の摂理でもある。


その先々の、荒筋が全く予測出来ない中、私は、芦原先生の最後の亡くなるまでの7年間を、芦原英幸の側に仕えた。


仕えたといっても、高校卒業したての18歳、アルバイト職員としてである。

初めての仕事が、芦原先生のカバン持ち兼運転手だった。

右も左もわからない、世間知らずの門前小僧を拾って貰ったといっても過言ではない。


いわゆる「拾われし者」である。


幸か不幸か?この拾われし者が、厳しい修行の日々に耐え切れずに次々に退職されていった先輩職員の方々を尻目に、芦原先生の運命の流れの中で辞め時を失い、最後の一人だけになった。


そして、天から何の使命を帯びての拾われし者の役目だったのか?

その後、芦原先生の葬儀委員長を拝名し、2代目に繋ぐ事業承継にまで携わる組織の常に、キーマンとしての役割を演じざるをえず、又、それと同時に要注意人物として扱われた中、2代目館長の目の上の瘤の存在となり、退職を与儀なくされた運命でもあった。


振り返ると、天が導いた歴史の転換期の波に飲まれ、組織としての事業承継の狭間に、繋ぎ役の一人の役目として、一生懸命にその役をこなし去っていったのがわかった。


しかし、この誰にも味会う事の出来ぬドラマの中、職員在籍12年間に及ぶ貴重な体験が、何があったとしても「最後まで、絶対にあきらめない。」という強い精神力を養う事が出来た。


そして、職員退職後の様々な直弟子との貴重な出会いの決断の中、自己成長にも繋ぐ事が出来た。

その事は、生涯忘れえぬ成長の財産である。


又、この期間の描写や伝説的な話は、様々な著書の中で真実的に書かれているが、当然、書く側の思いと、人から伝え聞く内容、言葉の表現の使い方によって、事実とは異なる脚色の話になってしまう事もありうる。


この話を世に出す思い、切っ掛けの一つとしては、伝説的な逸話の話ではなく、ずっと側で芦原先生を見てきた、歴史を揺るがす場面の、正にその描写、描写の真実を、出来うる限り、見てきたままに、伝えたいと思ったからでもあり、「人間・芦原英幸」としての、人間性の生の部分を語ってみたかった。


当時、組織の内側にいる人間としては、芦原先生が言う意見が、例え違うと思った事でも「押忍!」としか答える事が出来なかった側面があり、反論意見を言った時点で、ある意味、「クビ」をも意味していた。


今でも心に中に、非常につらい過去として残っている。


当然、退会や独立していった者は、組織内の貢献度の実績が高く、大きければ大きい程、今までからの評価が一変し、誹謗・中傷へと一瞬で変わっていった。


芦原先生亡き後、遺言を守る形にて葬儀委員長をした際、過去、退会されていった直弟子の先輩の方々を、葬儀にて門前払いを実行すると言う、かなりきつい対応をせざるをえなかった。


その後、職員退職後、門前払いをした直弟子の先輩方々に、自分の出来うる限りの誠意にてお詫びに周り、双方の言い分、外側から見る話しも聞く事が出来た。


又、双方の話を聞く中において、自分の知る事実を書き遺しておこうと思ったのも、一つの理由である。


現在、私も勤めた新国際空手道連盟 芦原会館も2代目館長 芦原英典氏と数多くの門弟が組織を守り活動しているが、初代~2代目館長に継承されるまでの期間に、芦原英幸直系弟子達も在職期間、目立たぬ場面で物凄い組織貢献を果たし、人から人への繋がりの中で現在があるのも事実である。


人は、円満にはいかない別れの際、自分自身を守る為、ある意味、自分を正当化する生き物でもある。


芦原先生の元を去っていった直弟子の評価もそう、紙の表と裏があるように辞めた時点 で、一瞬で一変していった。

歴史の中で、辞めざるをおえなかった直弟子達の評価も、誰一人として例外なく、芦原先生からの、誹謗・中傷にさらされ、敵対視される運命にあった。


当時、何に対しても「押忍」としか言えなかった子どものような自分が、月日の年月と共に、これではいけない。同意だけではなく、自分の意見をも述べた上で 直弟子達の真実をも語りたいとも思い立った。


誹謗・中傷を勲章にし、むしろ去らざるおえなかった芦原英幸の直弟子達が、会館発展に多大なる貢献をし、退職後も世界中に散り張り、各々の考え方の元、各分野にて無くてはならない存在として、各々の活動の領域を広めているのも事実である。


この直弟子との最後の別れの切っ掛けの部分やエピソードを今回、私の知り得る限りの真実のみをお伝え出来ればと思う。


そして、2代目として跡を継いだ芦原英典館長が、もし、この文章を読む事があるならば、過去、私に対し2度行って来た、情けない行動ではなく、偏った一方だけの考え方に終わる事なく、一流派の長に留まるだけの小さな世界を卒業し、芦原英幸先生に教わってきた全ての方々の発展・成長を節に願う大きな器をも兼ね備えた人物・行動に繋がるよう、この話が、今後の活動の礎・参考にもなれば幸いに思います。

国際空手道連盟 如水会館 館長 原田 寛 

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